農業とエンジニアのダブルワークを始めてからもうすぐ1年が経ちます。
お世話になっている農家さん(鈴果園)は主に梨とお米を栽培しており、私は梨の栽培に携わっています。
実際にどんな仕事をしているのか、農業とエンジニアの両立は可能なのか、約1年の経験をもとにご紹介します。
目次
仕事内容
1年間の作業
【1月〜3月半ば】剪定作業、苗木植え
冬は樹木の管理がメインで、この管理は梨栽培が難しいと言われる作業のひとつにあたります。
果樹は1本の木から何年も実を収穫しつづけます。そのため、木のメンテナンスがその年の収穫に大きく影響します。
とくに梨の主力品種”幸水”では、同じ枝から毎年実をつけることが難しく、枝の更新作業が必要になります。
その年に実らせた枝を切って新しい枝に変え、その切り口に保護剤を塗布して枯れ込みをいれないようにします。
圃場の面積や木との間隔、枝の太さや樹齢の違い、数年後のイメージなどを頭にいれて、どの枝を切ってどれを残すかを考えながら行う必要があります。
こうした剪定作業を園主がされて、私はその後の保護剤の塗布・切断後の枝処理などを行っていました。
冬場なので寒さとの戦いです。枝をまとめる作業も腰にくるので、コルセットをつけていました。
剪定作業のほかには、苗木植えを行いました。
1年間は不織布ポットで、そのあと畑で育ちます。細かい根がたくさんあって横に広がっていると、養分供給がうまくいくポテンシャルの高い苗木と判断できるようです。
【3月後半〜4月】摘蕾、摘花、受粉、網掛け
3月半ばになると芽が動きだします。陽気とともに花芽が膨らみ、3月下旬には蕾がほころびます。
主に側枝とよばれる枝から梨をとります。剪定作業時に側枝は棚づけされており、それ以外のところからは実をとりません。
花を咲かせたり、実をつけるのも木にとっては体力を使います。なので実をとらないところは蕾や花の段階で落とすことが理想です。この作業を摘蕾・摘花といいます。
4月になると一気に花が咲きます。桜の開花からだいたい1週間遅れで咲き、梨栽培で忙しい時期の始まりとなります。
梨は自家受粉ができないため、別の品種の花粉をつける必要があります。タイミングを逃すと受粉されないので、花が咲くタイミングでいっきに花粉をつけなければなりません。
この時期になると手伝いに来られる方々がいらっしゃいます。ミツバチの手も借りて、受粉作業を行います。
1箇所(1果そう)につき8個の花が咲き、下から順に1番果、2番果と呼ばれます。味がのると言われるのが3番〜5番果なので、人工授粉ではそこを狙って花粉をつけます。
雌しべの柱頭に満遍なくつけないと実の形が悪くなり、だからといってつけすぎるともったいないという、そのさじ加減が難しかったです。
そしてこの頃には虫・動物、氷や風よけ対策として園全体を網で囲います。
冬場の網を閉じている間に鳥たちが貯蔵庫として利用するらしく、開けた瞬間空から何か降ってくると思ったら、食べかけのいもでした。笑
【5月〜6月】摘果、緑枝管理、ジベレリン処理、黒星病取り
5月になると受粉した花の実が膨らんできます。
基本的には1果そうにつき1果にして、養分を集中させます。人工授粉したときと同じく、3番〜5番果で形の良い大きいものを残します。なるべく早いうちに1周まわっておき、2, 3周目で間隔をみながら限定していきます。
摘果はその年の収穫・収益に結びつく作業ですが、同じタイミングで来年の収穫準備である緑枝管理も行います。
実の成長は5月後半で一旦止まり、6月は木の成長が進みます。ここで成長したものが翌年に実をつける枝となります。
枝の力が強すぎると実がつかず、弱いと養分の流れが悪くなるので、強い枝は引いて弱め、弱い枝は立てて揺れないように止めてあげます。
この管理を手伝わせてもらった際、紐の結び方ひとつとっても慣れないと難しいと感じました。
また、花芽形成や伸長を促すために枝を切る作業も行います。
摘果・緑枝管理のほか、成長を促進させるホルモン剤・ジベレリンを塗る作業や、黒星病にかかった葉っぱや実を回収する作業を行います。
ジベレリン処理をすると収穫期を早められ、単価アップにつながります。
黒星病は胞子をとばして広範囲に影響を及ぼす可能性があるため、見つけ次第取り除きます。
【7月】ちょっと休憩
7月に入ると、木の成長から再び実の成長へと切りかわります。この時期まで木を切ると負担がかかり、実がついている枝を触ると落ちるリスクもあります。
この時期はよく年に実をつけるための誘引作業だけにとどめ、収穫期まではひとまず落ち着きます。
【8月〜9月】収穫期
1年でもっとも忙しく、稼ぎどきです。
早いと7月終わり、遅いと10月半ばにとれる品種もありますが、市場に出回る多くは8、9月に収穫期をむかえます。
市場出荷、スーパー・注文販売をしている鈴果園では、以下のようなスケジュールで動きます。
早朝〜11時:収穫
11時〜12時:梨選別、市場出荷、注文用箱作り
12時〜13時:お昼休憩
13時〜15時:注文用箱づめ
15時〜17時:スーパー用袋づめ
17時〜:ヤマト・スーパー出荷
時間の前後はありますが、午前に収穫や選別、市場出荷を行い、午後にスーパー・ネット販売の準備をします。
私は8〜17時で収穫、箱作り、箱づめ、袋づめを行っていました。
収穫の判断基準は表面の色がメインで、収穫期の始まり・終わりとでも変わります。さらに品種や出荷形態によって色の基準が異なり、素人目ではなかなか難しかったです。
食べ頃の梨は格段に美味しく、収穫のタイミングが大事なのがわかります。
メジャーの幸水、豊水、あきづきはもちろん、あまり市場に出ない秋麗、甘太、秋満月など、約20品種を栽培されています。
ネット販売のほか、マックスバリュ習志野店と東習志野店でも販売していますので、ぜひ見てみてください。梨の時期以外にはお米や野菜が並びます。
【10月〜12月】網閉じ、土壌メンテナンス、秋剪定、改植・定植、落ち葉回収
収穫後、翌年に向けた準備をします。
4月にかけた防災網を閉じ、葉や実の調子が悪い木や老木に対して、土壌のメンテナンスや改植・定植を行います。
元気な木が育つように、地温を上げてメンテナンスをしたり、病原菌となる根っこを取り除いて肥やしを与えます。
冬の時期に行う剪定を、葉が残る秋にも行います。秋剪定を行うことで、以下のようなメリットがあります。
- 木が眠っていないため、切っても芽がふきやすく、傷口がふさがりやすい
- 葉っぱが残っているので枝の間隔がイメージしやすく、ちょうどよく枝を入れられる
- 冬の剪定にかかる時間を削減でき、春以降の作業が後ろ倒しにならない
12月には葉っぱもなくなります。落ち葉は黒星病の原因となるので、なるべく取り除きます。
1日の流れ
収穫の繁忙期を除いて、1日の流れは下記のとおりです。基本的には9時から17時までの間で働かせてもらっています。
9時〜:農作業
10時すぎ〜:お茶休憩
休憩後〜12時:農作業
12時〜13時:お昼休憩
13時〜15時:農作業
15時〜:お茶休憩
休憩後〜17時:農作業
午前と午後で作業が変わったり、作業は同じだけど圃場が変わったりもします。
休憩の時間は特に決まりはなく、お茶とお菓子を頂きながら、梨栽培、農業界、雑談など色々な話をしています。
農作業も楽しいですが、こうした会話も楽しみのひとつとなっています。
雨の日、勉強
作業に遅れや急ぎがない限り、雨の日はスーパーに出すお米や野菜の袋づめなど、なかでできる仕事をさせてもらっています。
お昼のときは、休憩スペースにある園主が参加された勉強会の資料や現代農業などを読んでいます。
Youtube チャンネル“よくわかる!梨の作業シリーズ”では、時期ごとの管理を動画にまとめられているので、予習・復習として観ています。
ダブルワークについて
農業が週2日、エンジニアの仕事が週3日の割合で働いています。
繁忙期になれば週3日以上通うこともありますし、落ち着いていたり、予定していた日が雨だったときは週1日ということもあります。
日にちや曜日は決まっておらず、お互いの予定にあわせて柔軟に決めています。
エンジニアの仕事もリモート・フレックスなので、農業がない日や終えたあとに稼働しています。
働き方が真逆なので良い気分転換にもなり、楽しく働くことができています。
虫は嫌いですし、腰に負担がかかるなど体力的に大変な部分もあります。それ以上に、土と人にパワーをもらって圧倒的に癒しとなっています。
おわりに
農業の仕事内容とエンジニアとのダブルワークについてご紹介しました。
農作業は体験したものの一部であり、実際にはもっと色々な知識と仕事がありますし、栽培する作物によっても内容は大きく異なります。
勉強しなければならないことも多いですし、自然を相手にするのでうまくいかないことも多いはずです。
楽しく仕事できているのは、園主とご家族の人柄のおかげだとも思っています。
おんぶにだっこ状態ではあるものの、面白いな、これからも農業に携わりたいなと思っています。
“農家は勉強しつづけて技術を磨かなければいけない”とおっしゃっており、エンジニアと通ずるところがあるなとも感じました。
農業の仕事内容と魅力が少しでも伝われば幸いです。鈴果園の梨やお米は絶品ですので、のぞいてみてください!